推しロスで闇落した厄介ファンをプリキュアはどう救うのか? 『映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』感想

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『映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』ネタバレありで感想。 女児向けアニメの映画という以前に70分でここまでやるのかという濃密な映画でした。


https://2025.precure-movie.com/

『映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!』とても良かったです。 女児向けアニメの映画という以前に70分でここまでやるのかという濃密な映画でした。

ということでネタバレありで感想。

以下あらすじ。うろ覚えなのでセリフとかたぶん間違えてるけどあまり気にせず書いていきます。

映画はいきなりメインステージらしきところでのライブから始まります。巨大ステージらしい音響が表現されていますが、観客の姿が見えず。どうもリハーサルらしいとわかります。ライブの運営委員長でサンゴの妖精のトットがでてきて招待された顛末が語られます。ここでなぞのハンドストラップによるワープが出てきますがこのギミックが割と多用されるので、そこら辺を受け入れられやすくするための流れな気がします。招集方法がほぼ誘拐なのはどうなんだ。

そのあとアイドルフェスを色々見学しに行くわけですが、その前にちらりとうたの目に映る少女の幻(綾波かな?)

いろんなアイドルに挨拶回りしたり丘の上の女神像を見物して女神様の1000年前の伝説を聞きます。1000年前ってすごい昔ですね!っとおどろくキュンキュンにそうですか?と返すトット(伏線)女神様に歌と踊りを奉納した巫女にちなんで十年に一度アイドルフェスを開催してるとのこと。「あんまり頻繁にやると興ざめですからね」というトット(伏線)。常識的に考えて十年経ったらアイドルは全部入れ替わりますよね。

さて、アイアイ島の海が急に濁りだし、ヤミクラゲというのが湧いてきて騒ぎになります。女神の力で抑えられていたはずのヤミクラゲたちは生命力を吸い取って生き物を石にしてしまう危険な敵。(ここらへんテレビシリーズの敵の設定を持ってこないのが映画で初見の人置いてかなくていいですね)

海から湧いてきたヤミクラゲはふつうにどんどん陸上にもあがってきて島の人々は石にされてしまいます。その後プリキュアたちが応戦するも数が多すぎてどうにもならず丘の上に撤退。トットによるとアイアイ島の海は世界につながっているとかでここがヤミクラゲにやられると世界中の人が石にされてしまうらしいです。というわけで巻き添えを食らって石にされるはなみちタウンの響カイト。ちなみに今回は石にされる以外の出番はない響カイトです。

丘の上にもヤミクラゲが上がってきてもうどうしようもないとなったところで、さっきの幻っぽい少女が現れてプリキュアたちを1000年前のアイアイ島に飛ばします。(まあはじめは1000年前とはわからないけどみんな賢いのですぐわかっちゃう)ここでなぜか呪術廻戦の死滅回遊参加時みたいにメンバーのランダム分散が行われるわけですが、うたとメロロンの組み合わせとその他に分かれるのがテレビシリーズの最近の展開的にかなり熱い。

転送後ねむっていてメロロンに起こされるうたですが、高いところのサンゴの枝に引っかかっています(まじで死滅回遊みたいに空から落ちてきたのか?) そのあと落っこちそうになった、ではなくてまじで落っこちたところをさっきの幻っぽい少女テラに助けられます。しかし話してみるとさっきとはどうも様子が違い、連れてきたという記憶もないらしく今はなぜか一人だけど普通にこの島で暮らしているらしい。(髪飾りの形も違うし伏線かなあと思うけど普通に伏線)

それからやなんやかんやあって…

と、ここのテラと仲良くなるエピソードを省略しようと思ったけどカサゴの棘に刺されて死にそうになる展開はまじでリアルすぎてスルーできないんだけどなんなの?子どもたちへの注意喚起なの?磯にいるカサゴの棘は毒があって刺されるとめちゃくちゃ痛いらしいから本当に気をつけようね。

…などなど、なんやかんやあって、テラはアイドルが嫌いらしい、女神は普通にいるらしいけど引きこもってて会えないらしい、なぜ引きこもっているかというとショウワ(?)からきたアイドルが急にいなくなってしまって悲しくて毎日泣いているんだそう。 という重要情報が村の方にたどりついたキュアウィンク側と場面をクロスしながら語られます。

女神がいるということは1000年前じゃんということがここでわかりますよね。 「えー!」ってまあえーっとはなるけど映画の冒頭でも強制ワープあったし、映画のポスターの時点で過去に行くとか書いてあったので1000年前にワープさせられた衝撃は正直あんまりない。見てる側としてはそれよりもショウワのアイドルの衝撃のほうがやばい。えーーーー!昭和じゃん。確かにアイドルのオリジンといえば昭和だけどさ。昭和アイドルが流れ着く浜ってなんなの。

あと、うたはアイドルがいなくなって引きこもっている女神について推しロスは悲しくなるよねと女神に共感を示すんだけど、女神もアイドルも自分の仕事はちゃんとしろよというテラの意見が正論すぎる。はい。

そのあと浜で3人が一晩眠って起きるとヤミクラゲの群れに襲われており、テラはヤミクラゲを呼び寄せる体質なので一人で行動していたと語る。うたとメロロンも変身して戦い3人で奮戦しているところに他の3人が村人といっしょに助けに来て、撃退するが一瞬のスキを突かれてテラが巨大なヤミクラゲの触手にさらわれるという展開。

(ここで村人たちが適当な武器をもってちゃんと助けに来るのがいいよね。話の都合でテラを大人が放置しているみたいな感じになってなくてまともな大人たちで本当によかった)

その後、みんながテラを探すが見つからず。女神に相談すれば助けてくれるはずだと長老はいうが女神はショウワのアイドルを連れもどさないと悲しみのあまり会ってくれない、とのことでみんなで手分けしてショウワのアイドルを探すことになります。

なにかヒントはないかと村人たちに聞いてみると、まえにショウワのアイドルが島の離れ小島が故郷に似ているので行ってみたいと話していたといわれ、その小島にショウワのアイドルを探しに行くのですが…

物語のモチーフについて

現実として海水温の上昇になどよるサンゴの石化は深刻な問題なので、サンゴの島の敵として「石化」を持ってくるのはかなりちゃんと考えてんなという感じですが、そもそもサンゴの島、クラゲの敵、石化した女神。ここらへんの設定はびっくりするほど練り上げられていてびっくり(二回言った)。

サンゴが死んで石化してしまうという実際の話もありますが、まずクラゲの触手から連想して髪の毛が触手(蛇)のメデューサ、よって石化というモチーフのつながり。これは論理的な意味はあんまりないが後半の展開からすると物語的納得感が高い。

見た者を恐怖で石のように硬直させてしまうとされる。頭髪は無数のヘビで、イノシシの歯、青銅の手、黄金の翼を持っている(腰に蛇をまいた姿や、イノシシの胴体と馬の下半身になった姿で描かれることもある)。海の神であるポセイドーンの愛人であり、ポセイドーンとの間に天馬ペーガソスと巨人クリューサーオール(「黄金の剣を持てる者」の意)をもうけた。 ... 元々美少女であったメドゥーサは、アテーナーの神殿の1つで海神ポセイドーンと交わったためにアテーナーの怒りをかい、醜い怪物にされてしまう

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%89%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%82%B5

このメデューサ、後で書くけどそのまんまのが出てくる。

ちなみに今調べたんだけどクラゲはサンゴと同じ仲間で泳ぐか泳がないかの違いらしい。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2019/04/news/news_190416/

ヤミクラゲをプリキュアたちが倒すと死ぬのではなく綺麗な水色のクラゲに戻る描写が執拗に必ずあるのだけど、ここらへんはマックランダーみたいに根っからの悪ではなく闇に染まってしまった普通のクラゲだったのだということを表現したかったのだろう。だとするとクラゲがサンゴに対する敵役なんだけど実は同じものというのはめちゃくちゃ必然性があるな。

うーん。なんだこれ。すごい。なんでサンゴに対してこんなにリサーチがしっかりしているんだ?

女神とショウワのアイドル

まず映画の冒頭から石化した女神という伝説があるということで女神像を紹介されるわけですが、これって神様の石像なわけで、原義としての偶像(アイドル)なんですよね。 だけどこの映画の話の構図としては逆で、実際の女神はアイドルではなくはショウワのアイドルのファン。

孤独に島を守ってきた女神はひたすら祈る仕事に疲れ果てていたけどショウワのアイドルと出会ってファンになり、アイドルを応援する活力で仕事も頑張れるようになります(お前は日本の会社員か?)。島の人には感謝もされていたんだけどそれでは埋められないものがあったんですね。 (話がそれますが女神の部屋みたいなとこに飾られてた手書きのアイドルプロマイドみたいな絵にファンの狂気を感じて怖いですね)

アイドルは神ではなくてファンが神。でもこれはよく考えると納得できますよね。アイドルは歌ったり踊ったりしてファンを勇気づけるけどそれ以上のことは実際にはやっていない。孤独に頑張って実際にみんなのために仕事をしたり救ったりしているのはファンの方である。アイドルはそれを間接的に応援するだけで実際の仕事がなにかできるわけではない。(いやこれは単に映画から自分が読み取ったアイドル観でそれ以上の意味はない)

「実際の仕事」とはまあ孤独に耐えながらヤミクラゲの増殖を抑えて世界を何千年も救い続けたりとかそういうやつ。

生きる時間の違い

しらなかったけどサンゴはまじで何千年も生きるらしいです。(群体として?みたいだけど)

世界最長寿級の深海生物を発見 〜太平洋の海山(水深525m)で7000年以上生きるサンゴ群体〜 https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/61710/

アイアイ島の村人(サンゴの妖精)はついこの間ショウワのアイドルがいなくなったみたいな口ぶりで話していたので、プリキュアのみんなで探していたのですが、実際は何十年も前の出来事だったことが判明します。 サンゴと人間の流れる時間が違いすぎたんです。昭和のアイドルは自分が老いて死んでしまう姿を見せたくなくて女神の前から姿を消したのでした。

「とつぜん失礼なことを聞きますがお年はいくつなんですか?」「あたしかい?300年を過ぎたくらいかねえ」と普通のおばちゃんにいわせるの衝撃だよ。話がいきなり浦島現象系の時間SFになってるじゃないか。

いやもうこのショウワのアイドルが姿を消した真相の展開だけでも泣くんですけどね。離れ小島の頂上付近でボロボロ小屋の残骸にボロボロの手帳が落ちているんです。あえてその中身ついて触れないのがニクいです。 70分しかないからね。しかも歌と変身バンクを入れるノルマも多分あるんですよこの映画。知らんけど。

その結果、余白で語っているんですね。

アイアイ島を小島から眺める孤独な老女の背中。朽ち果てて木の骨組みだけになった小屋。風に揺れる白百合の群生。

メデューサ

テラをさらっていったのは洞窟に引きこもっていた女神でした。推しがいなくなって心を病んだ女神はヤミクラゲに付け込まれて精神を乗っ取られてしまっていたのです。このときの闇落ち女神のビジュアルが半分クラゲの触手ででろでろになってて気持ち悪いんですけど完全にメデューサです。

「お前など所詮わらわの小枝に過ぎない(佐倉綾音ボイス)」と言ってテラを吸収します。(吸収のしかたが「腹から」でジョジョの柱の男とか鬼滅の童磨って鬼と同じなのな)

実はテラの正体は女神の角のかけらであり女神の一部だったんですね。

調べたら実際にサンゴは自分の一部を切り離して無性生殖で増えることができるらしいんですよ。なので(なので?)はじめはここで私は2人は同一人格ってこと?って思ったんですが人格的には別人格って考えて良いみたいです。

いや制作陣サンゴのディティールにこだわりすぎだろ…

最終バトル

テラを吸収して完全体となった闇落ち女神は巨大化して島まるごと石化しようとしてきます。そこで、プリキュアたちが集まって対抗するわけですが、完全体なので全然勝てません。ヤミクラゲをめちゃくちゃ召喚してきます。

ここでちびっこ向けの「頑張れー」ってファンがプリキュアを応援するタイムもしっかりあったり、なんか村の子供の「もっとプリキュアがいたらいいのに」って願いでわんぷりたちが召喚されてきます。

これが意外と大人目線でも結構ハラハラするんです。 なぜかって、まあバトルの行方は別にいいんです。 問題は落とし所なんですね。

これって結局推しを失ってしまった熱烈なファンの闇落ちって話なんです。種族間の寿命の違いってSF要素もあるんですが途中でうたが言ってたように、アイドルの活動期間というのは結構短いので引退しちゃうっていうことは普通にあるわけです。この解決方法って何があるかなって考えたときに、「他のアイドルに乗り換える」っていうのもあるなって自分は思っちゃったんですよね。

特にテラはアイドルプリキュアにかなり心を動かされてたので、女神もアイドルプリキュアに乗り換えて救われて終わったらどうしようかと思いました。 だってもしそうなったら、忘れられるショウワのアイドル目線ではめちゃくちゃ悲しいじゃないですか。(こっちはさっきすでに泣かされてるんだよ!)

でもそうはならないんです。大丈夫です。アイドルはファンの心の中に生き続けるからです。

わんぷり組とのここでの掛け合いは涙なしには見れません(ごめん。実はわんぷりはひろい見した程度ので大体しか知らないんだけど)

未来で待ってる!

結局女神は浄化され自らの力でこれまで島の石化を解くのですが、その代わり力を使い果たしてそのまま石化します。テラは女神の力を受け継ぎ次の女神となりますが力を使い果たしたので1000年眠って力を貯める必要があるといいます。 (細かいけど髪留めが女神のマークになったのが女神テラの見分け方で映画の冒頭で出てきたのが女神テラだったことがわかりますね)

1000年も一人で待つなんて!とおどろくうたですが、「推しのライブが待っていると思えば1000年なんてすぐだよ」といってテラみんなを現代におくりかえすのでした。

その後現代に戻ったアイドルプリキュアたちの怒涛のライブシーンがあって終わりというきれいな締めでした。

全体の感想

いやいやいや… いやいやいやいや…

なんすかこの完成された映画。

完全になめてました。プリキュアの映画は大人がみても面白いとは聞いていたけど、まあアンパンマンの映画とかドラえもんの映画のまあまあ面白いやつ程度かなと思ってました。

時間SF、種族間のすれ違い、のような要素もありつつ主軸として、「アイドルとはなにか」ということをかなり真正面からテーマにしてブレなかった映画だったと思います。もちろん子供映画として必要な要素を完全に満たしていて子供も楽しめる内容なんだけど大きくなってもっかい見たら感想が全然変わるんじゃないかな。どうだろう。

つけたすならアイドルの音楽要素と映画との噛み合いかたがかなり良い。以前から"ボヘミアン・ラプソディ"から"ONE PIECE FILM RED"などなど一連の音楽映画のブームがありましたがその系統の映画として見れるので歌や踊りや変身シーンの要素が子供向けだから無理やり入っている感じがなくてかなり受け入れやすい。ラストライブの流れなんてボヘミアン・ラプソディのライブエイドじゃないですかあ…。

そんでさ、締めがタナカーンの「そろそろ撤収してくださーい」て終わるのおしゃれすぎるぅぅ。。。

思い出すとまだまだ出てきそうなのでこれくらいにしておきます。